武蔵野美術大学 「芸術文化学科」って、どんなところ?

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武蔵野美術大学
「芸術文化学科」って、
どんなところ?

武蔵野美術大学
造形学部 芸術文化学科

准教授 佐々木 一晋

トーリン美術予備校

学長 瀬尾 治
学長補佐 佐々木 庸浩

(芸術文化学科のパンフレットを拝見しながら)改めて芸術文化学科とはどのような授業を行い、どんな人材を輩出しているのでしょうか。

毎年4月にこのようなパンフレットを作成しているのですが、今年もまずは芸術文化とは何かを教員の中で3日位合宿のような形でパンフレットにまとめてみました。まずは3つの柱(プランニング、マネジメント、ミュゼオロジー)を整理してカリキュラムを図式としています。少し説明的にはなりますが、興味ある学生さんであれば読んで頂いて分かってもらえると思います。

造形学部 芸術文化学科
准教授 佐々木 一晋 氏

芸術文化学科は特にミュゼオロジー(博物館学)のイメージを持たれている方が多いのではないかと思います。

そうですね。芸術文化学科は学芸員課程が取得できるという事が特徴で、一般の学科で学芸員の単位を取得するには通常単位の124単位にプラスして19単位を追加しないといけないのですが、芸術文化学科は124単位の中に19単位がほとんど必修として含まれていますので、芸術文化学科の授業をとっていくだけで学芸員単位が取れるという取りやすさが特徴です。80名弱いる学生の中で50人くらいが学芸員単位を取得します。

学芸員の資格を取得したい方の割合は入学時から多いのでしょうか?
それとも授業をとっていく中で人気が出てくるのでしょうか?

学芸員課程を志望するためには1年次から計画的にとっていかないと取得できませんので、必修で学芸員課程の授業が入っています。2・3年生になったときに必要なければ他の興味ある科目をとっていくという子もいます。

取得する前提で準備されているというのが取りやすさにつながっているわけですね。
芸術文化学科に興味ある生徒さんは美大だけでなく、普通大学も興味を持たれていることも特徴だと思いますが併願状況はいかがでしょうか。

一般大学では明治、青山学院、立教、中央、法政、慶応、などを併願されている方がいます。また同じムサビの他学科を受けている生徒さんが見受けられるのが特徴かもしれません。

ありがとうございます。
では芸術文化学科ならではの特徴的な授業があれば教えていただけますでしょうか。

芸術文化学科には、学部2年次にキュレーションを学ぶ授業(授業名:展示基礎)があります。学生たちはチームに分かれて、専任教員の作品コレクションから2点を選んで、そこにもう1点何かをプラスして、3点を合わせて展示を企画します。自分たちの視点で1点をプラスし、コレクション作品と組み合わせ新たな価値を生み出すことでキュレーション力を磨いていきます。選定する作品が同じでも全く異なる展示が生まれることがありますし、違う見え方、見せ方を学生たちが提案してくれることに毎年びっくりします。

例えば作家が120パーセントの力で作品を生み出したとしても、キュレーションをする側がその40パーセントしか捕まえきれないかもしれない。ある種、作り手と受け手の余白の部分をいかに展示方法や配置の仕方に組み込むか。ライティングひとつとっても視線の動きが変わりますし、そうしたところにキュレーションの意図が映し出されていきます。教員も学生のそういったアイディアや工夫を楽しみにしていますし、学生が行うキュレーションの面白さを強く感じます。

展示基礎の授業では、「展示」の目的や意義、歴史的変遷、「展示」と人をつなぐ教育や広報などについて学び、「展示」の方法論や技術的側面について実践的に理解を深めていきます。

また、授業の中で、アーティストと一緒に展示をするカリキュラムもあります。トタンを素材として30年間で1,000点以上の作品を作り続けている、吉雄介さんというアーティストの作品を学科のコレクションとして所蔵しているのですが、そのコレクション作品を吉さんと一緒に展示します。

吉さん自身がこれまでどうやって作品を展示してきたのか、レクチャーを聞いた後に、床面をテープで囲った枠内をギャラリーに見立てて、ひとつずつ作品を置いていきます。例えば、規則的に配置してしまうと、作品の存在とは異なる別の意味が生まれてしまうこともあります。展示空間と作品の関係性を考えながら、展示者の意図をどう伝えられるか。アーティストと作品とコミュニケーションをすることで、そういったことに気付き始めたりするわけです。

お話をお聞きしていてまるでDJのようだなと思いました。
DJは様々な「楽曲」をセレクトしてその場、その空間を作り上げますが、芸文の学生さんたちは「作品」を使って展覧会を作り上げていく。
シチュエーションに合わせた展開というのが似ているなと。
今の子には理解しやすいですし、とても合っているんじゃないかと思いました。

今の世の中は目まぐるしく変化していて、SNSをはじめとしたさまざまなメディアから情報もどんどん入ってきます。下手したらみんな同じ情報を見ていたりしますし、ちょっと油断すると面白そうだというだけで、短絡的に画像イメージからヒントを得ようとする学生も出てきたりすると思うんですね。

しかし、今お話しいただいたDJのように、自ら作品や素材を見出して、状況に合わせてその場や文脈を作り上げていくことの大事さに気づいた学生は、単に授業に収まらず、自分たちでプロジェクトを立ち上げたり、学外でもいろいろな活動を展開しています。

こうしたDJが見つけるような素材って、作品だけではなく、場所であったり、人だったり、また画面上のビジュアルだけではなく、リアルに身の回りにたくさんあると思います。こういった素材の可能性に意識を向けながら制作や展示に取り組んでいくと、絵を描く行為そのものが鑑賞の対象になったり、これまでの作品表現の枠を超えた展開も生まれてきます。

こうした意味において、今おっしゃっていただいた「DJ的」という表現はとても興味深いですね。想像が閉鎖的ではなく社会に対して開放的に開かれている、自分の創造的行為が社会に接続している。そんなイメージが膨らんでしまいました。

就職先に関してお聞きしたいのですが有名企業が並んでいて、とても多岐にわたっていますね。

芸文は入ってから沢山プレゼンテーションをさせまアーティストの吉雄介氏を特別講師に迎え、ギャラリーに見立てた空間に実物の彫刻作品数点を配置していく(授業課題の講評風景)。アーティストと学芸員の視点を往来しながら展示する行為について学びます。

また、チームワークの中では独りよがりで作るわけではなく、作ったものを言語化して伝えていく必要があり、言語化できてくると内省的に作ることがきちんと見えてくるのではないかと思います。説明をしたり作品をキュレーション側から観たりすることによって、ディスクリプション(解説や説明などの意味)といいますか、記述することによって価値をしっかり残していく。一過性で何となく思ったではない事を共有するきっかけ作りを授業の中でも作り出しています。そういった点がもしかしたら就職でも生きてきて、面接でもしっかり自分のことを話せているのではないかと思います。

アーティストの吉雄介氏を特別講師に迎え、ギャラリーに見立てた空間に実物の彫刻作品数点を配置していく(授業課題の講評風景)。アーティストと学芸員の視点を往来しながら展示する行為について学びます。

1~4年生までの間に共同作業とかプレゼンテーションなどの機会が多くあるのですが、その先には自分よりも他の人が秀でた部分というのが色んな分野で見えてくるんですね。それであるが故に、自分の領域といいますか専門性が見えてくるわけです。

例えばプレゼンテーションがとても上手い子がいたとして、自分は他のところでどう貢献できるのかといった場合、手段を変える方法も出てきます。例えば4コマ漫画で伝えてみるのはどうだろうか。プレゼンはできないかもしれないけど、もしかしたら4コマの方が上手く伝わるかもしれない。というように何か伝えるためにゴールにたどり着くには色んな手段があります。

芸術文化学科はこのようなことから問い始めるというようなところがありますので、それは他の学科と違って学生間でお互いをリスペクトが増えていきます。作家としてやっていく学生や、キュレーションしていく学生など小さな社会の縮図が学科内にあるという事でいろんな領域への就職に広がりながら就職率につながっているのかと思います。

学生へのメッセージとしてお答えしていただきたいのですが、「あこがれのアーティストがいたりするけど、大学選びや科の選考に結び付けられない」という場合にどうすればよいですか。

あこがれや将来のビジョンが有るときに、そこが大学と簡単に結びつかなくても良いと思います。まずは見てもらう事や近づいてみることが大切だと思います。第一線のアーティスト、アートディレクター、画廊の方とよく話すのですが、まずは学生が見てほしいといったときに第一線で活躍されている方は絶対に断らないです。日本のアート界を牽引しているアーティストも先日、本当に同じことを言っていました。意気投合して凄く盛り上がったんです。

SNSなどで出来れば躊躇しないで、かばん持ちでもお手伝いでも少しでも憧れの方に近づいて、物が作られる時のバックボーンを知れたらそれは大学の授業よりも多くを学べることでしょう。大学受験とは少し切り離して考えても良いかもしれません。

もちろん大学生しながらできることもあるので、その憧れの方にアプローチすることはどんどんやった方がいいと思います。芸文でも個人的に活動している生徒がすごく多いです。小説書いている子もいれば、漫画家になっている子もいます。自分の道を見つけられるという事はとても喜ばしいことで、その辺の行動力をためらわずにぶつかることが大切だと思います。

トーリン美術予備校の応接室にて。左から佐々木准教授、瀬尾、佐々木。当日はコロナ対策をした上でお話を伺いました。