日本大学藝術学部 デザインの力の証明 産官学プロジェクト

写真:右から池田光宏教授、谷口聡子専任講師、瀬尾、稲葉、佐々木、佐藤徹教授 、布目幹人准教授

産・官・学ー実社会から求められる美大

デザインの力の証明
-産官学プロジェクト-

日本大学 藝術学部

教授 池田光宏

教授 佐藤徹

専任講師 谷口聡子

准教授 布目幹人

トーリン美術予備校

学長 瀬尾 治
学長補佐 佐々木 庸浩
制作 稲葉 克彦

(INABA STUDIO)

日本大学芸術学部は 2021 年に創設 100 周年を迎え、大きな節目の新たなアクションとしてさまざまな産官学プロジェクトに取り組んでいます。今回の取材ではデザイン学科で取り組んでいる、伝統ある産官学の取り組みから最新のプロジェクトまでを紹介します。


池田光宏教授(グラフィックデザイン) 『きゅうりのデッサン・プロジェクト』

池田教授が企画するキュウリのデッサンプロジェクトは日大芸術学部がある練馬区との地域連携のプロジェクトです。入学したての1年生が行うキュウリのデッサンプロジェクトとは一体どんなものでしょうか?

日芸の校舎は練馬区にありますが、学生は当然日芸に通ってる意識はあっても、練馬区という地域に通ってるって意識はないと思います。しかし、東京にも地域性はありますから自分たちが通ってる大学の地域性に着目してもらいたいと思い、入学したばかりの1年生をターゲットにキュウリを描くプロジェクトを始めました。練馬区が東京23区の中で、最大の農地を有することを知ってもらいたかったのです。内容はドローイングの授業の枠組みですのでストレートにデッサンです。しかし「テーマをもって構成すること」「描画にボールペンを使うこと」などちょっと受験と違う感じを出しながら色んなことを試し、とにかくキュウリを新鮮な目で見てもらおうと思って取り組みました。最終的には、農地を会場に行われる農フェスタに展示させてもらいます。つまり農園の方に届けてもらったキュウリを描き、その作品を農地で展示するというプランです。

また、最初に発展途上と言いましたが、今後もう少し具体的な予算を組み、例えば2、 3メーターの大きな作品を展示することを考えています。さらに、これは1年生のプロジェクトですが2年生になっても関われるような規模とし、地域との関わりを深めていけたらと考えています。

地元の農家の方の協力で、立派なきゅうりが運ばれてくる。
改めてきゅうりをじっくり観察し、受験とは違う観点で描写。
今年の作品のサイズも結構大きく見えますがサイズは?

A1サイズです。実際に街中とかこういう農地とかに展示すると、小さく見えてしまいます。展示してわかるスケール感の重要性にも学びはありますよね。グラフィックデザインでは原画を拡大して使用する場面もよくあるので、学生には農地で展示することでサイズの重要性をリアルな体験として学んで欲しいと思っています。

制作時間はどのくらいですか。

時間は2週間の期間のうち授業時間は6時間ぐらいです。大学1年生の課題は今後必要とされるトレーニング的なものがすごく多いので、自分のクリエイティビティを発揮し夢中になって絵が描ける時間というのは殆どありません。やる気のある学生は家に持ち帰って描いていますし、伸び伸びやれる課題として楽しめている気がします。結果として面白いのはやはり視点の面白さが提示されると、デッサンの技術をも凌駕してしまうことです。なんか受験のようなデッサンが上手な人が必ずしも良いわけではなく、もうちょっと違った視点やテーマが加わることで多様な価値が生まれてくる感じがすごく面白いです。学生たちのデッサンに対する見方も自ずと広がっていきます。

プロジェクト系の授業ですとグループワークのイメージがありましたが個人の作品がプロジェクトとして展示されるのは1年生として周りの子を知る機会にもなりそうですね。時期はいつぐ らいに行うのですか。

制作は7月初旬に行い、展示は11月です。おっしゃるとおり7月の段階だと個性をぶつけ合う自己紹介みたいになりますね。

個性溢れるデッサンがそのまま自己紹介にもなっている。
予想以上に見学者の反応があった。
このようなプロジェクトは池田先生の授業、あるいは日芸さんに依頼が来るのですか。

はい。そうです。最初は3年生、4年生が主体となって地域のブランディング的なものを考えていました。しかし、そういう事例はたくさんあるので、もうちょっと低学年で関われるようなものができないかなと思いこちらから提案させていただいたところ、農園の方が賛同してくださり今のかたちになりました。

今年実施してみていかがでしたか。

実は農園の方や来場者の方がデッサンを見て、どんな反応や意見が出るのかすごく不安でしたが、会場の中で、みんな何か食べたりしながら結構じっくり見てくれていました。中には箸くわえながら身を乗り出してジーっと見ている姿もあって、「良かった。リアクションあるじゃん!」と凄く安心しました。やはり、絵があると景色が変わるんですよね。連鎖反応で周囲の見方もいつもと変わっていく。これはパブリックな場で展示することの醍醐味だと思います。

学生たちにとってもデッサンという、個人で取り組みやすい題材をそのまま農家の方とか地域の方に提示して、その違和感を両者が持ちながら成立しているところが、プロジェクトとしてすごく面白いと思います。また、1年生だけにこのような地域との関わり合いというものが、これから自分が行っていくデザインの視点にも繋がりそうです。

そうですね、僕も個人でやるっていうところを重要視しています。一人ひとりのパーソナリティーみたいなものを土台にして他者と関わることで発生する化学変化が面白いのです。そんな体験を、制作した学生と地域の方々の間で共有できたら有意義なプロジェクトになると思っています。

池田光宏 教授(グラフィックデザイン アートプロジェクト4年生ゼミナール)

『みらいめがね・プロジェクト』 WEB限定

これは僕がアーティストとして依頼を受けたワークショップです。茨城県のつくばみらい市で開催されるミライアートフェスティバルで、何かプロジェクトをやってみませんかというお話をいただきました。地域の方と関わってくださいとのリクエストだったので、それなら学生を誘った方が面白くなるのでは?と思い、ゼミの学生に協力してもらい小学3、4年生の子供たちとワークショップを行いました。
タイトルは地域名の“つくばみらい”から“みらいメガネ”と命名しました。内容は紙で見えない眼鏡を作ってみようというものです。本来レンズのあるべきところに自由に絵を描いてもらい、それをかけた状態でポートレイト を撮影するまでがワークショップです。なぜ目を見えなくしているかというと、理由の一つには肖像権の問題が絡んでいます。ワークショップの記録写真は肖像権保護の観点から公開できないことが多く、すごく楽しい写真が撮れてもその成果が公開できないという問題が起こるのです。「それならば、最初から目が隠れていたらいいのではないのか」と考えました。目が隠れていることで、参加者の顔が判別しづらくなるけど、代わりにそこに描かれた絵によって内面に隠されたクリエイティビティは表出する。いつも見ているものが見えなくなる代わりに、見えないものが見えてくる。そういう「みる」と「みえる」、「想像」と「創造」の関係を考えてみようとする試みです。ワークショップではゼミの学生とのマッチングがすごくうまく行きました。子供と学生ってめちゃくちゃ相性がいいんですよ。想像できると思いますけど、絵のうまいお兄ちさん、お姉さんは、たちまち子供たちの人気者になっちゃいます。
学生さんたちはどのように関わっているのでしょうか。

学生にも一緒につくってもらいます。すると相乗効果で「こんな工夫してやろう」とか、「なんか凄いアイデアをぶちかましてやろう」という刺激的な関係ができるんですね。見せ方を考えて、なんかおもしろいものをつくろうとする気持ちが一体化するような雰囲気が醸成されていくんです。

この写真見ても、緑の服着てる子が緑の絵描いているとか、出来すぎじゃないかと思うようなことが自然に生まれていきます。どう見せるか?どう見られるか?を意識してつくる楽しさに気付くんですよね。

(自分の衣装とマッチングさせながら、デザインを考えてみた作品/写真)

先ほどのキュウリのデッサンと同じで、みんなでやっているけど、子供たち一人ひとりのクリエイティビティを引き出すということにもなるし、学生たちがファシリテーションする側として携わろうとする姿勢が見えてくるのもすごく面白いなと思っています。完成したプロジェクトの写真は最終的にはつくばみらい市の図書館で展示をしました。

この2つ以外にもプロジェクト的な授業は、年間の中であるのですか

キュウリのデッサンは授業なので例外ですが、基本僕のプロジェクトは不定期です。そして授業の中には組み込まず、単位取得などとは別次元で自主的にやってみたいと思う人に関わってもらいたくて、その辺を線引きしています。やりたいという学生はすごく多いのですが、やってみると思ったより大変だったと思ったり、しんどい思いをしたりということもあるのかもしれません。でも、一定の負荷がかかったプロジェクトの方が結果的にはやってよかったと思う人も多かったりするので、その辺の加減に難しさはあります。ですので前提として基本的には自主性が重要だと思ってます。

このプロジェクトに限定することではないと思うのですが、芸術家になりたい、デザイナーになりたいという学生は、1人で完結する場合、絵を描いて、あるいはイラストやデザインをして、納品しておしまい。ただ、こういうプロジェクトは第三者と関わり合って、向こうとの対話から生まれてくるのだと思います。偶然性も含めて、自分の範疇の中でやっているものではないものが出来上がってくる。そういうものに対しての面白みを日芸の学生たちは既に知っているのでしょうか。それとも、先ほどの1年生の時からの授業でだんだんそれが芽生えてくるのでしょうか。

入試の面接などで、「プロジェクトがやりたい」「地域と連携している作品を見て、大学に入りたいと思った」という人はたくさんいます。学生たちは大学に入る前から社会とコミットして何かやりたいという気持ちがあると強く感じています。

大学を選ぶ時点で、そういう学生が日芸さんを選んでるのもあるのかな。バイタリティが高いイメージはあります。

先ほど個人でつくる、集団でつくという話がありましたが、僕もかつて予備校の先生をやっていたからわかるんですけど、例えば静物デッサンを描く時に、「物を描くんじゃないよ、ものの関係を描くんだよ」なんて言うじゃないですか。結局それがずっと繋がっているように思うんですね。つくるということは突き詰めると関係性をつくることになるんだと。実はデッサンの学びからこうしたプロジェクトの取り組みは地続きなんだということを、学生たちは自然に受け入れているんじゃないでしょうか。

佐藤徹 教授(プロダクトデザイン)『日本製紙/SDGsのプロジェクト』

日本製紙株式会社と手掛けてきた紙パックの再利用のお話から現代社会が直面するモノづくりについてお話を聞かせていただければと思います。

製造メーカーさんは今、一生懸命SDGsやエコに力を入れています。紙パックの製品も素材は紙なので相対的にエコなはずなのですが、実は紙パックといっても内側にアルミが塗布されているような紙パックはリサイクルができません。(焼酎とか、果汁100%の紙パックに使われていることがが多い)このアルミ等の金属が混ざった紙を再利用する提案を依頼されているのですが、これを大学院生の授業に取り入れ約半年かけて取り組んでいます。

この素材はどういうものなのですか?

1回アルミが混ざって分離できないものは粉砕して板状にはできるのですが、それをポリアルと言います 。ポリエステルと紙の素材は取り除くことができるのですが、フィルム上のポリエステルは分離できないため、リサイクルができないのです。また、毎年ビッグサイトで〝エコプロ展〟という展示会があります。そこは大企業が「こんなエコな取り組みをしていますよ」と公開する展示会です。(花王、ライオンなど生活用品関係の企業や各種自動車メーカーさんが集まり3日間開催される)私はJIDA(日本インダストリアルデザイン協会)のエコデザイン研究会という団体に所属しエコデザインの研究をしていますが、この〝エコプロ展〟にブースを借り出展しています。

板状に加工された実際のポリアルとそれをカットして作成されたオブジェ(テラリウム用亀型苔着生オブジェ)。
日本製紙株式会社と共同で取り組んだ新しい形状の牛乳パックのデザインは8年前から始まったプロジェクト。これは製品化されていてセブン-イレブンで販売されている。
“力のないお年寄りでも開けやすい”というコンセプト。
学生さんはどのように関わるのでしょうか。

学生は半年間ワークショップに参加して、作品を作り展示をします。日芸からは毎年5、6名ぐらいが参加しています。このイベントでは我々プロも提案を出すのですが、学生たちの作品も並べます。普通、展示会場というと綺麗に装飾がなされるのですが、床とかは何もせずに〝そのまま〟なのが面白いです。エコの取り組みですから、そういうところに気を使っているわけです。しかし会場を見渡せばエコの取り組みとはいえ、ブースなどの什器は期間が終わると壊し、ものすごく大量のゴミが出ます。私たちはそのブースの什器に着目して、すべてリサイクルできる段ボールブーを作成しました。20年続いていますが、かなり丈夫です。20年の間、傷んだら交換しながら使っています。

入場無料で3日間行っていますが学生も当番で説明などを担当します。今は幼稚園から高校生ぐらいまでは学校の授業の一環として見学にきます。ただ、初日の朝に幼稚園生が団体で来るので、ブースや作品が壊れないかいつも心配です(笑)

こういうイベントに出て感じることは。

各企業さんそれぞれ環境問題についての取り組みが盛んです。そして、そこに学生の新しいアイディアを生かしたいという声が多いです。実は、今1番アパレルが問題視されています。布の再利用は反毛といってカットして綿みたいな状態にしてからの再利用方法があります。車の吸音・断熱材などに使用されますが、もっと他の用途も考えて欲しいという依頼があり、現在は反毛の再利用の取り組みをしています。

社会でSDGsが認知されるよりもかなり早く、プロダクトデザインの世界は問題に取り組み始めていた。
今の学生たちは生まれたときから環境への意識が高いということ。
学生さんがエコロジー含めた社会問題に対して、自分と距離があるものではなく、それに取り組むこと自体がライフスタイルに入っているようなイメージがあります。ここに出てくる学生さんたちの作品を見ても、もう生まれてからずっとエコとか環境問題とか身についている世代でしょうから、より身近にアイディアが出てくるのかなと思いました。

特にプロダクトはものをつくる立場に関わるので、その先使われなくなった時、素材がどう姿を変えリサイクルされるのか壊れたら直して長いこと使ってもらうにはどんな製品があるかなど考える必要があります。極端な話、作るのすらやめる。代わりのものを探しましょうという考え方かもしれません。多分我々の年代だと、まず公害があって、病とか、人の健康が害されるというシビアな状況がありました。それが一段落してから今度は温暖化があって1つの国だけでは対応できなくなってきました。そうすると、もう本当に化石燃料という素材をどうするか考えなくてはならないところになりました。そうすると、プラスチックや樹脂などはプロダクトのメインの素材ですから、〝減らしながら〟もしくは、〝使うけれども大事に使える〟ような仕組みを当然考えなくてはならないわけです。

やり玉に上がっているという点も含めて、今1番大変なジャンルだと思いますが、その分やりがいがありそうですね。

今はやりがいだけではなくて、その後もある程度責任を持ってくださいという風潮なので、作る側はその後のことも考えて作らなくてはいけないというのが現実です。学生たちはただただ物を作るわけではなく、その先を考えてデザインしなければいけないのが現状です。

例えば今の学生は物欲が随分薄い傾向があり、物をたくさん持ちたいとかそういう感覚は無いみたいです。車も欲しいとは思っていないみたいですし、物の所有ではなくサブスクみたいな感覚でしょうか。音楽のパッケージは必要なく、聞ければいいという体験型の傾向なので、そのような生活の中でのデザインという考えは随分昔とは意識が変わっています。

プロダクトの分野でも個人意識ではなく、サブスクみたいな感じですか?

企業の制作はそんな感じです。社会システムをデザインするっていうのが、プロダクトでは随分増えたと。

すごくリアリティがあります。なんとなく頭ではそういうイメージでしたが、やはり直接学生さんと向き合っているからこそのお話が聞けたのは面白いです。考え方が変わって、生き方が変わってきていますよね。

ほかの先生方とも話すのですが、所有欲については我々の世代とは違いますね。かっこいい車に乗りたいとか無いですし時計もそこまで興味は無い。我々世代が学んだプロダクトデザインは、〝物を持つ喜び〟が入り口だったりしたので、かなり意識は変わってきた印象です。僕らが体験したバブル期のように、高級そうに見えてかっこいいとか見栄が張れるようなものっていうのは今の世代には全然響かない。だから新しいモノづくりが生まれていくのかもしれません。

谷口聡子 専任講師 (建築・スペースデザイン)『銀座和光 ウィンドウディスプレイ』

銀座WAKOを舞台に行われてきたショーウィンドウのプロジェクトは20年の歴史があるデザイン学科の人気プロジェクトと伺っています。

毎年WAKOのデザイン部・武蔵淳先生という方に来ていただき、年に2回WAKOのショーウィンドウディスプレイを学生のアイディアで作ってくださるという授業があります。時期は2月のバレンタインデー、6月のジューンブライドの2つの課題があります。毎年様々な分野から参加希望があり、学生が集まります。そして各々WAKOから出されたテーマに取り組み、優秀者の作品がエントリーされていきます。

2月と6月、2つとも大きなイベントですね。

ウィンドウディスプレイを構想して、そのデザインの考察と発表を目標としている課題ですが、課題の解き方に学生たちは頭を悩ませます。スペースデザインの中でもディスプレイのデザインは「具象的なものを具象的にならずに、コンセプチュアル強いままに表現していけるか」が他の課題には無い特殊な部分だと思います。

『銀座・和光』のディスプレイというステータスが学生のモチベーションにも繋がる。
取り組み方はどのように行われるのですか

グループでも個人でも自由に取り組めるようにしています。コロナの時期は社会の全てがオンラインオンラインでしたから同級生とも会えずに課題をオンラインで行なう事が多く、やっと対面授業になりグループワークをやりたいという学生が目立ちました。また、最初のバレンタインデーの課題はグループで取り組み、次のジューンブライド(指輪のディスプレイ)は1人でやってみようと切り替える学生もいます。

毎年様々なコースから参加希望があるそうですが、この課題に歴史があり、認知が広がっているから学生たちの中でもこれは取りたいと決めているのかもしれませんね。

建築分野からも将来はディスプレイの仕事に進みたいと考えている学生もいます。そういう学生も多くいる環境で、本当に学生の考えるアイディアは面白いと思います。銀座の街並みのウィンドウを武蔵先生と一緒に見学する校外授業を行ってから改めてWAKOのディスプレイを考えるのですが、銀座のイメージを覆すような面白いアイディアを出してきます。このデザインが銀座WAKOを飾るのか…と少し戸惑うこともあるのですが、結構そういう驚くようなデザインが選ばれるから面白いです。

デザインだけではなく、現実的に設置が可能かなど、さまざまな側面から検討を重ねる必要がある。
どのように選出されるのですか。

上位3つをこの学校内で選出し、WAKOの本部に持っていきます。そこで、社長やディレクションの人たちで投票し選ばれます。そして選ばれた作品が実制作に入っていきます。社内の案件として要件を満たしていることと、この企画内にちゃんと実現できるか?など、企業としての事情も含めて決まります。

3つに選ばれるまでが自分でプレゼンをして勝ち抜かなくてはならないのですね。このプレゼンで勝ち抜いた後はどのような流れになるのでしょうか。

最後は模型とパネルに託します。「期日の何時までに模型を持ってきてください。」という感じで、必死に追い込み作業を行い提出します。最後はプレゼンがないのでこちらの予想と違う結果になることも面白いです。そこで選出された作品の模型を実際の立体にしますが、その時にイメージの違いが起こりやすいので学生が制作の現場に行ってチェックしながら進行していきます。

最終的にできた作品を見返すと、「今までのWAKOにないイメージ」ということが決定の理由かと感じます。例えばバレンタインの時は、柑橘系のチョコレートを売り出す企画でしたのでこれまでのWAKOさんの〝赤〟ではなく、オレンジとか黄色がキーカラーになりました。そしてメインとなる〝喜んでいる顔〟のディスプレイは銀座の街中で凄くインパクトがありました。また、ジューンブライドの作品では、恋に落ちたり、結婚したりする時の気持ちは未知だから、宇宙船に連れ去られるようなイメージにしたという作品です。UFOをダイヤモンドの形に見立てています。撮影スポットなども用意されている参加型のディスプレイでした。

課題を通して学生さんの反応はどうですか?

やはり、自分のアイディアが街に反映されるということが、学生にとってかなりの喜びとなります。そして、なんだか面白い2つの作品が銀座のショーウィンドウで実現するという事で、学生は毎年すごいやる気を出してくれています。学生の反応を見てもとてもいい授業だと思っています。

デザインは選ばれても制作での問題も起こりやすそうですね。その素材だったらできないとか。

やはり現実的ではないから選べなかったという事もありました。最初の課題説明の時には、現実的に作れるか?ということも頭に入れ、発表する時は素材に言及することが大事だと伝えています。例えば、自分でマスコットをフェルトで作ってきて素材感やイメージをプレゼンで伝え、選ばれた作品があります。

プレゼンを通すために、学生が自ら準備してきたのですね。

この課題は、最終的にディスプレイになるから模型が重要です。模型の中でどうやってその空間を見せられているかが評価の対象であり、なによりコンペを通るためのポイントになります。

WAKOさんへ3点ぐらい案をお見せすると伺いましたが、内部で審査する際に先生がご覧になって、通る作品はだいたいわかるものですか。

そうですね。他の分野の先生にも投票していただき上位3作品を選ぶのですがやはり予想通りの結果になります。私的に上位は3、 4点かなと思っても、WAKOの方々からは「全部良かった」「全部持っていきたい」という感想をいただくので、学生のアイデアは全て面白いんだな、と思いました。

制作はどのぐらいの期間で行うのですか。

プロジェクトの最初は後期の授業の9月末から始まります。そして11月に学内で選考しその後1月までにWAKOさんが実制作を進めますので制作時間はかなりタイトです。アイディアが決まったらすぐ次の週から学生と一緒に制作に励んでいます。この授業の一環として、みんなで銀座に行き資生堂ギャラリーやエルメスなど面白いディスプレイを見て回ります。また、特別にWAKOの屋上に登らせてもらえます。この屋上はすごく高級な指輪を買わないと入れないみたいですけど…みんな喜んで記念写真撮ったり、高級チョコレートを食べたり、楽しみも多いプロジェクトです。

布目幹人 准教授(コミュニケーションデザイン) 『日芸×国(JAXA)と宇宙(学部連携)』

現在、デザイン学科が理工学部と進める学部間連携プロジェクトの舞台はなんと[宇宙]。
今まで研究室に留まっていた理工学部の最先端の研究の素晴らしさと魅力を、さまざまな人々に伝え、共感したい。全ての垣根を越えて、日芸デザインが動き出す。
●理工学部と芸術学部の学部連携の始まり
学部連携の始まりや経緯について教えてください。

日本が誇る新型基幹ロケットの「H3ロケット」で日大理工学部の奥山研究室が大学衛星を飛ばすというお話を聞きました。その大学衛星は、H3ロケットで打ち上げられる最新型の無人補給船 「HTV│X」 (旧称:コウノトリ) がISS (国際宇宙ステーション)で補給ミッションを終えた後に高度500㎞の地球周回軌道に放出されます。この衛星について少し紹介すると、

・衛星の名前は「てんこう2」です。

・大きさは30㎝×20㎝×10㎝です。(6Uサイズ)

・奥山研究室が様々なセンサーやカメラで実証実験を行います。

・データのダウンリンクには高性能送信機を使用しますが、運用中の機体情報はモールス信号で発信されます。

・地上で信号を受信し数値をデータとして蓄積していきます。

「おお、それは凄い!」…とは感じるものの、我々的にはもうちょっとロマンみたいなものを加えたいな、と思ったのです。理工学部の学生さんは本当に頭が良いので航空宇宙工学分野でJAXAやその関連企業に就職するような学生です。そこに芸術学部8学科、簡単に言うとエンタメ担当が絡めばちょっと面白いことになるのではないかということで、プロジェクトを一緒に進めていく事になりました。そもそもこの学部間連携は伝わりづらい研究分野なので「てんこう2で宇宙を身近に感じて欲しい」という思いを、高校生にも伝わるような入り口としてステートメントを準備しました。日芸の文芸学科にはSFを専門としている先生がいらっしゃるので、そこのゼミ生に協力していただき短いお話を作りました。簡単な話、SFの世界では空想で宇宙や月に人間を送ってきましたが、そこに現実世界の科学が追いついてきたという話です。宇宙ということで言うと、「科学者や研究者も、SFの世界でちょっと夢みがちな我々も同じ目線だよね」というような思いです。理工学部と芸術学部が一緒に組んで、重力に囚われないクリエイティブな学び、実験の場にしようというフレームを作りました。そして、文章内(写真)にある「さあ未来を実行しよう」が理工学部と芸術学部の目的です。

文部科学省での展示から。右下に見えるのが衛星「てんこう 2」
宇宙開発は高度な知識と技術の融合が不可欠。しかしそこに「人」を感じる暖かさ、ロマンをアートとデザインの力で加えていく。
●この小さな衛星を飛ばすうえで、夢見がちな我々が提案したこと
いよいよ始まりですね。日大芸術学部さんが絡むとどのようなことが起きたのでしょうか。

まず我々デザイン班は「てんこう2」を開発している学生さんたちをポスターにしました。経緯としては、理工学部の奥山先生は様々な場所で講演など行っています。その時に「なんか僕の手柄になっているような感じで聞かれちゃうのが嫌なんですよ」という話がありました。そこから「一緒にやっている学生たちが頑張っているから飛ぶんすよ」というポスターを作ってみたらどうでしょうかという提案が生まれ、芸術学部に理工学部の学生を呼んでスタジオで撮影しポスターを作りました。さらに芸術学部からの提案として、「てんこう2から貴重な観測数値がモールス信号で飛んでくるのはわかります。けれども、それだけでは全然ロマンがない…やっぱり我々はこの衛星に人を乗せたい!」

ワッペンひとつからワクワク感は増していく。
??

実際にこれを伝えたときも今のように〝…乗れないでしょ〟という目で見られました(笑)もちろん実際の人ではなく、「イメージとしての人間、『バーチャル宇宙飛行士』を搭乗させたい。『キャプテンヒカル』というバーチャルクルーを立てたいのだ」という提案をしたのです。例えば、てんこう2から送られてくるソーラーパネルの発電量や電池残量などの数値に合わせて「電池はたっぷり残ってるから何かミッションやっちゃいます?」なんて話しかけてくれる存在がいてもいいのではないか?と。ある種運用上のエモーショナルなUI (ユーザーインターフェイス)としての存在を作りましょう。演者は芸術学部に沢山います。といった提案です。まずは、『ヒカル』の姿形のオーディションを行いました。描きたい学生は芸術学部にたくさんいます。多くの応募からビジュアルが決まりました。さらに、声優(CV)のオーディションを行いました。日芸には声優コースはありませんが、数多くの声優を輩出しています。演劇学科・映画学科・放送学科・文芸学科から将来声優を目指している学生たちが参加。キャンパス内に収録スタジオはいくつもありますが、今回は情報楽コースのスタジオでしっかり収録しました。

●キャプテンヒカルが誕生したことによって変わったこと
芸術学部が関わることで今までと大きく変わったことはありますか。

今までは、地上基地局と呼ばれる衛星のコントロールセンターには衛星から送られてくる信号を表示する画面が無機質に並んでいました。それもカッコいいんですけれど、そこにもう1つ『キャプテンヒカル』が話しかけてくれるモニターが増えます。エモーショナルなアプローチで理工学部の学生たちのモチベーションを上げるだけではなく、外部への情報発信のひとつとして作っています。例えば、宇宙からのデータ転送の実証実験に使う「データ」の中身は(実験としては)なんでも良いんですが、そこに我々が企画をくっつけました。「せっかくなので音楽を宇宙から届けるのはどうですか?」と。で、高校の吹奏楽部に日芸に来てもらって演奏を収録。その収録は音楽技師を目指す学生たちが参加してくれています。N.U Cosmic Campus という枠組みは、名前の通り、宇宙にキャンパスを作ったよ。というもの。なので、「重力にとらわれず、みんな、参加してね!」の精神なんです。宇宙と全く関係ないと自分ですら思ってた人達を巻き込んで盛り上げてる感じです。1月〜2月に、文部科学省のエントランスでこのプロジェクトの展示をやったのですが、そこではキャプテンヒカルが「てんこう2」のフライトミッションやN.U Cosmic Campus全体の説明をしてくれました。もちろん、模型やミッションの図解も展示しているのですが、これまでの理系の研究発表とはひと味違う展示となりました。

小さな衛星でも人を乗せたい!そして搭乗することになった「キャプテンヒカル」。文部科学省での展示でも全体説明を担当。
●プロジェクトを通して感じる学生の力
プロがこういったプロジェクトを行う場合、ある程度着地を見据えて組み立てていくと思いますが、これらに学生が携わることで先生の考える着地点は予想通りになりますか。

毎回超えています。私も段取りをしながら、おそらくどの辺までという予測を付けるのですが、ほとんどの場合学生たちはそれを超えていきます。例えば、コロナ前にカリフォルニア観光局さんから「カリフォルニアのプロモーションをお願いできないか?」というお話が来ました。早速授業でアンケートをとってみると今の学生達はアメリカに1ミリも憧れていませんし、海外旅行いくなら韓国か台湾と答えます。なので、漠然とカリフォルニアのプロモーションを行うのではなく、カリフォルニアが「大学生の卒業旅行」の選択肢に入ることを目指すプロモーションならやる意味があると思います。と、話をまとめるところまではこちらでやりましたが、その後、具体的な施策の内容は5つのチームを作り、それぞれが企画して直接カリフォルニア観光局の皆さんにプレゼンしました。5つのチームの中で、採用されたチームは実際にカリフォルニアに取材旅行にいけるのでみんな気合が入っていました。なので、観光局側も粋な計らいで、採用案の発表を六本木のハードロックカフェを貸切ってパーティー形式で行っていただいたりと、とても盛り上がりました。実際にカリフォルニアを北と南で班分けして取材旅行に行き、自らが撮った写真や動画をまとめパンフレットやポスター、プロモーション動画を作りました。この時点で、我々大人たちの想定は満たしていたのですが、彼らはそれだけでは止まりません。HISと共同開発というカタチでカリフォルニアの卒業旅行商品を作ってしまいました。さらに渋谷と日芸でプロモーションイベントを開催。自分たちで作った様々なアイテムを多くの人達にしっかりお届けし、その反応も直接見れて、さあいよいよ!というところで残念ながら、新型コロナの流行が起こってしまいプロジェクトは終了となってしまいました。

旅行代理店とのコラボレーション。大学生目線の「卒業旅行」の候補としてカリフォルニアの魅力をアピール。

このプロジェクト以外にも千葉県富里市のニンジンのプロモーションでは「きっとニンジン嫌いが見たら嫌な広告になってしまうかも」ということで「にんじん嫌いの皆さんごめんなさい」と謝罪広告風なアイデアを本気でプレゼンし、実施してしまったり、富里市のビッグイベント「スイカロードレース」がコロナで開催できない間、レースのキャラクタースイカ顔のランナー『とみちゃん』に再就職してもらいましょう。と、100種類以上のランナー姿以外の職業のとみちゃんを制作したり。もちろん富里市の市役所の皆さんは大喜びで、これまで以上に市内のあちこちでとみちゃんを見かけるようになったりと、みんなこちらが思う着地点を超えてきました。

コロナ禍で活動の場がなくなったキャラクターに再就職を。ということで生まれた 100 種以上の「とみちゃん」
●美術・デザインの力、日芸で学んでほしいこと
先生のプロジェクトは正確に消費者に伝えるためのデザインの力を感じます。今回の宇宙における数字の羅列のような〝魅力的なことなのにわかりづらいこと〟をいかに共感してもらうかは美術やデザインの力によってできたことだと思います。日芸に入学した学生に学んでほしいこと感じてほしいことはありますか。

日芸は同じキャンパス内に、8学科の違う分野の学生たちが同居しています。そして、各専門分野でそれぞれの「本分」としている所が違います。同じクリエイターの卵、アーティストの卵だとしても大袈裟に言えば価値観が違うとも言えます。そんなクリエイターを束ねて目標地点にみんなで辿り着くのはとても困難ですが楽しいことだと思っています。登山で例えるなら、予め決められたコースを登るだけではなく、それぞれの理想や得意技を持ち寄って自分たちで山頂を目指すルートを見つけるような感じです。様々な外部との連携プロジェクトにおいて、大人たちの御用聞きになる必要は無いのですが、それは目標地点に達さなくて良いということでもない。我々ならきっと想像を超える化学反応を起こせるはずで、そのためにはどんな準備や伝え方をするべきなのかを自分なりに考え学んでいくという実験をしていただきたいと思っています。

専門によっての枠を決めない連携の仕方というのは、まさにこれからの社会でますます必要になりそうです。全部飛び越えてみようという気にさせてくれました。ありがとうございました。

布目幹人 准教授 富里市と野菜 コミュニケーションデザイン WEB 限定

デザイン学科のコミュニケーションデザインコースのゼミから始まったプロジェクトは、学部全体対象の授業へと規模を変え、300名を超える学生が説明会に集まるそうです。千葉県富里市を舞台としたコミュニケーションを生み出すプロジェクトはいったいどんなものでしょう。

コロナ禍に千葉県富里市から「ちょっと、ご相談が…」みたいな感じで大学の方にお話が来ました。千葉県富里市は、農業が主要な産業です。成田空港のすぐお隣、滑走路と並行していて、成田空港ができたことにより空港関連で働く人たちが移住し、人口が増え市になったという経緯があります。電車は走っておらず駅はありません。その富里市の市長さんから、「我々にはない発想で富里を盛り上げてください」というようなお話が来ました。

お話の内容としては……

「農業を中心としているので、観光名所があるわけではない ・地元のJA直売所はあるが、一旦人が離れたら忘れられてしまいそう ・プロモーション得意ではないので私たちをプロモーションしてください 」

その時の状況としてはコロナで取材に行けないことが問題でした。しかしここ富里市に限らず行政の問題点なんてどこも一緒なのではないかと思い、学生たちには「地元のの市長さんにプレゼンする」つもりで考えてみようと方向性を変えて取り組みました。富里市には「市民の皆さんにより良い生活を」というテーマで「デザイン学科の学生ならではのご提案をします」というオンラインのプレゼンを行いました。
その中の1つ、富里市立図書館にまつわる案件をご紹介します。まず、学生に市立の図書館のイメージを聞いてみましたが率直な答えが返ってきます。「暑い時は、おじいさん、おばあさんの避暑地」「勉強している高校生さんもちろんいますけど……ネット時代に図書館ってオワコンかな…」とか言うわけです。「お前、本読まないだろっ」と突っ込みたくなるような学生たちとコロナ禍の図書館の課題点を探しました。ふと「図書館の本って書店と違って帯ないよね」という発見がありました。だったら、自分で読んだ本を次の人に向けて「帯」でレコメンドしてあげよう!というアイデア「読書駅伝帯リレー」が生まれました。図書館は富里市の公共の施設ですから、コロナ禍で三密を避けてと言われてたあの頃はあんまり外に出るのが良くないとされていて、本を借りてもすぐ退館しなければいけないという雰囲気でした。どんどん孤立していくというか、人と繋がってはいけないという世間の雰囲気なっていた状況で、「非接触でも誰かと繋がっていると感じられる仕掛け」を作った企画です。

写真:読書駅伝帯リレー

さらに富里市はニンジンの名産地で、おそらく12月の中旬から1月にかけて、この 辺で売っているニンジンはほとんど千葉県産って書かれた富里のニンジンになります。僕 も、広告代理店での経験はありますが、「ニンジンの広告」と言われても……学生と「ど うする?普通に作ってもね…」て話になるわけです。例えば不思議なカタチの、ヒトに見えなくもない二股のニンジン、できればセクシーなポーズのニンジンさんがいらっしゃるのだったら面白いかなと思って、何軒ものニンジン農家さんに市役所の人から声かけてもらいました。「セクシーなニンジン募集中です。」 と。60本ぐらいの二股ニンジンが集まったのですが、これはというニンジンは出てきませ んでした。どうしようかってなってたら、うちのゼミ生が「作ればいいじゃん」て言うんです。ちょっと作ればいいじゃんって……誰が作るのかなと思ったら……私が作ることになりました。確かに工作は好きですが、ゼミの先生にニンジンの模型を発注してくるのですから(笑)

※この企画を考えたのは、「作ればいいじゃん」と言っていたゼミの学生さん。現在、ひとりは大阪の、もうひとりは都内の広告代理店勤務。

zoom会議の様子

ニンジンの広告と言われても、ニンジン嫌いの人もいるだろうという事で、「ニンジン嫌いの皆さんごめんなさい。日本有数の産地だから皆さんを苦しめてるのは私たちかも……とはいえ、栄養価は高いので時々食べてみてくださいね」というような広告を作りまし た。見た人が友達に教えたくなるような、見た人に突っ込まれるような広告を作りましょう! というアイデアを富里市が採用してくれました。 掲載場所は、コロナ禍の誰もいない電車の中吊り広告です。

日芸:「今、電車、人なんか乗っていないのに、なんでそこに出すんですか!」

富里市:「議会でプロモーション計画が決まってしまってですね……」

このようなこともあったのですが、最終的には少しでも見た人に話題にしてもらえたり、※ ツイートしてもらえたり、バズるまでいかなくても少しは話題になれば良いかなという話になっていました。 そうしたら予想以上に、出勤しているメディアの人たちから電車で見たという問いあわせ があり、色々なところで取り上げてもらう結果になりました。 ※現在はTwitter社の「ツイート」がXに代わり「ポスト」となっている

そして最後にスイカにまつわる例をご紹介します。「スイカロードレース」ご存じでしょうか?これが、富里市が行う唯一の人を集めることができるイベント。給水所が「給スイカ所」になるマラソン大会です。

※給水所にスイカが並ぶスイカロードレース。年に1度集客力のある富里市の人気イベントだったがコロナ禍では中止に。

ロードレース写真1
ロードレース写真2
ロードレース写真3

そうなると様々なところに問題が出てきます。こちらは“とみちゃん”と言って富里市のゆるキャラさんで30年以上も活躍している。ゆるキャラさんの30年選手はなかなかいないので貴重な存在なのですが、スイカロードレースが中止になると、もしかして“とみちゃん”失業してしまうのでは?ということで、うちのゼミ生が「他の職業につけばいいんですよ!」と提案をしてくれました。様々な仕事のバージョンの“とみちゃん”イラストを作りました。これは市役所だけではなく市民の皆さんにもすごく喜んでいただいて、地域振興券などで使われています。

※とみちゃん一覧(120ぐらいのバリエーションの職種に就いた“とみちゃん

そして、とみちゃんだけではなくスイカのポスターも作ってほしいという要望も出ていま したので作成しました。こちらの取り組みも年々規模が大きくなり、現在はデザイン学科と写真学科が連携して お互いの得意分野を発揮しながらポスター作成をする授業となりました。

写真学科の撮ったスイカの写真をデザイン学科がポスターにした時の展示風景
ちょうど規模が大きくなるタイミングでできた情報発信拠点「末廣農場」
先生のプロジェクトは楽しく取り組んでいたら、自然に力が身についていて、仕事に繋がったり、その地域の人たちに連鎖したり循環がありますね。

そうですね。そうあればいいなと思ってやっています。プロジェクトの中では自分 のやりたいこととは違うとか、ちょっと理想と違うということは当然あります。人が増え れば増えるほどそういう風に思う学生も出てくると思います。みんなハッピーというのは 小人数になればなる程しやすくなりますが、規模が大きくなれば考え方も増えリターンを 求めてくる場合もあります。 プロジェクト中も学生たちには、「ここまではきっと予算をつけてくれているから実現す るだろう」とか、「それ以上のプレゼンをするのならしても良いし相手も喜ぶと思うけ ど、来年度の予算でという話になるかもしれないよ」とプレゼンの前に話をしています。 叶えてあげるために企業さんや行政のご担当さんへは「ちょっと学生は盛り上がっていま すので予定以上の提案がありそうです。」というように間に入りサポートしながら進めています。

それも、1つの勉強ですね。社会の仕組みも含めて学んでいるように思います。

例えばデザイン的にすごく良い提案が選ばれるとは限らず、ちょっとサボったかな?みたいなものが選ばれることもあります。それが悪いとか良いとかそういう事ではなく、やると決まったからにはその案で現地の人 たちにハッピーになってもらわなければいけません。しかし「このチームで頑張ろうぜ」と鼓舞して頑張っても全部が全部、地方都市がクールに変わり大成功というようなことに はなりませんし、デザイン良くても選ばれなかったチームは「なんで選ばれないのですか」みたいなことも起こります。これらを含めて社会を知るようなことだと思っています。富里の件で言えば、7月7日(七夕の日)にマルシェという形で、富里の野菜にオリ ジナルブランドのラベルをつけたり、プロモーション動画を流しながらの売り方とか野菜 の並べ方を提案してみたりと、8学科連携で取り組みをしてみました。8学科でやるということはポスターを作るにしてもデザイン学科だけではなく、撮影は写真 学科が協力したり、イラストは美術学科が描いたりと各学科が得意な分野を生かしていく 関係が生まれていきます。

ゼミから授業になりずいぶん様子も変わられたのではないですか。

ゼミから授業に移り変わってきましたが、授業となるからにはガイダンスをすることになります。新年度始めの4月のガイダンスでは300名くらい集まりました。学生は地域 連携とか、社会とつながるようなプロジェクトに対して、すごく興味があって、みんな自分の得意分野で役に立ちたいと思っていて、アートで世間を良くしたいという思いが結構あるなと思っています。

8学科の横の繋がりが強みのある取り組みとして拡大しているのですね。

8学科でやったらもっと面白くなるのではないかと思っています。今回はデザイン学 科としてお話しさせていただいていますが、そもそも日芸は8学科あり総合芸術大学と言えると思います。そうなると表現にまつわる様々なスペシャリストが集まる場所であり、クリエイティブに課題を解決する集団だと言えると思います。僕はいろんなとこで日芸を「なんとかする力のある集団」という感じで紹介させてもらっています。