2025東京工科大学 「リメディアル教育」と「感性演習」でデザイン学修の扉を開く

「リメディアル教育」と
「感性演習」で
デザイン学修の扉を開く

東京工科大学
デザイン学部

准教授 深澤 健作

高澤 恭子

トーリン美術予備校

学長 佐々木 庸浩

リメディアル
教育主任
藤本 成人

制作 稲葉 克彦
(INABA
STUDIO)

 東京工科大学デザイン学部は、初歩から個人の可能性を伸ばし、現代社会に必要なデザイン力で適応できる人材の育成をめざしています。その取り組みの一例として、総合型・学校推薦型選抜で早期に合格が決まった入学予定者に対して、「リメディアル教育」を実施してきました。また豊かな感性が、豊かな表現力につながるという考えに基づき、自ら感じ考える力を育み、手を動かしながら深く考察し、潜在する感性を引き出す「感性演習」というユニークな授業も行われています。

 今回はそのような教育力に定評のある東京工科大学デザイン学部で、リメディアル教育と感性演習を担当されている、深澤健作准教授と高澤恭子助教にお話を伺いました。

これから東京工科大学デザイン学部を目指す受験生に向けて、貴学でどのようにデザインの勉強がスタートするのか教えていただけますか。

本学では先ず、総合型・学校推薦型選抜で合格した入学予定者には、リメディアル教育課題を課しています。入学予定者は添削指導を受けながら、3ヶ月間に渡って課題を制作していきます。これらは単に技術的なスキルアップのみを目的とせず、学修に対するモチベーションの維持、向上を図ることもねらいとしています。

デザイン学部
准教授 深澤健作氏
デザイン学部
助教 高澤恭子氏
入学前からデザインの勉強が始まるのですね。

総合型・学校推薦型選抜で早期に合格が決まった入学予定者は、合格から入学までの期間が長く、空白期間が生まれます。そこでその期間を利用して、各家庭で実施できるリメディアル教育課題を制作してもらいます。これからデザイン学部で学ぶにあたって大切な、デザインのための思考プロセスに触れてもらうとともに、大学でのカリキュラムにスムーズに対応できる力を身につけていただくためのものです。

リメディアル教育課題の中身はどのようなものですか。

本学のリメディアル教育は、[6種類の実技課題]と[4 種類の英語課題]により構成されています。例えば実技課題では、幾つかの条件にしたがって作品を制作してもらいます。入学後の授業に繋がる実践的かつ幅広い内容です。

またデザインの世界において、国際舞台で活躍するための英語でのコミュニケーション能力は、もはや必須のスキルです。入学後はネイティヴ・スピーカーによる英会話授業など実践的な授業が展開されますが、リメディアル教育では「単語力」「読解力」「作文力」などの基礎を再確認する内容を重視しています。そして実技の全ての課題文と解答用紙に、英訳をつけていることも特筆すべき点です。これは実技と英語の基礎力を同時に身につけることを狙いとしています。

リメディアル教育は入学前に実施されるとの事ですが、高校生活との両立は可能ですか。

課題は実技、英語とも2課題ずつ郵送してもらい、添削して返却します。高校での学習を考慮して、基本的には2週間で実技1課題、英語1課題というペースを設定しています。1 日1時間課題に取り組んだとしても、十分に期限内に完成できる分量です。実技課題は経験がない入学予定者でも自力でこなせる内容にしていますが、万一の場合は電話で直接質問できるなど、きめ細かなフォロー体制を整えています。

東京工科大学のリメディアル
教育課題過去出題例
東京工科大学のリメディアル
教育はいわゆる入学前の基礎
訓練では収まらず、大学での
授業の理解度をより高めるた
めの大切な体験となっている
リメディアル教育についてはイメージが沸いてきました。実技経験が少ない入学予定者でも安心して入学前の準備ができますね。では次に、入学後に履修する感性演習について教えてください。

本学はデジタル技術が発達している今だからこそ、それぞれが持っている感性を大切にしています。豊かな感性は、豊かな表現力につながります。感性演習「描く・伝える」および感性演習「つくる・関係づける」を履修し、さまざまな課題制作を通して、自らの力で感じ考え、手を動かしながら考察するための演習を数多く体験します。それらの体験によって潜在する感性を引き出し、大きく育んでいきます。

デジタル技術が発達している今だからこそ自らの力で感じ考え、手を動かしながら考察する機会を与えているということですね。

手を動かしながら考察するということは、トライアルアンドエラーであり、デザインに限らず、あらゆる分野において必要な行為です。最初からAIやデジタルに頼りすぎると、貴重な経験を逃してしまいます。エラーや失敗から学べることは、とても多いでしょう。AIやデジタル技術は、人の経験や知識、そして体力的な限界の先の世界を見せてくれる重要な道具です。 正しい方法でデジタル技術を操ることで、人より多くのことができるようになると思います。

では感性演習の具体的な中身に触れていきたいと思います。感性演習「描く・伝える」の演習内容を教えてください。

感性演習「描く・伝える」では、柔軟にアイデアをアウトプットするために観察や表現する力を養い、さまざまな分野に生かすことのできる平面表現力を身につけてもらいます。そして他者に伝えるための幅広い視野を身につけることも求めています。

それらの力を身に付ける為にどのようなトレーニングをしますか。

観察ベースのデッサンやスケッチ・着彩から始まり、テクスチャー、色彩、形、構成といったテーマで感性を磨きあげ、表現力を身につけていきます。

柔軟にアイデアをアウトプットするための秘訣は?

恐れず、考える前に手を動かすこと。これに尽きると思います。あるいは、とことん情報を集めるのも手かもしれません。両方試して、自分のスタイルを築いていくことが大切だと思います。

ボールペンと透明水彩を
使用した素描課題
形態、質感の違いがある
モチーフをデッサン
観察が重要
感性演習「描く・伝える」課題例
街を歩いてテクスチャを収集
では次に感性演習「つくる・関係づける」についても教えてください。

さまざまな素材による立体・空間表現の基礎について、手を動かしながら造形力を養い、ものと人との関係性を理解し、多角的な視野に基づく思考やかたちにするためのアプローチを学びます。

ものと人との関係性は大切にしたいポイントですね。

ものづくりは人を中心に捉えて行うことがほとんどだと思います。作り手と見る側との関係や使う側との関係において、立体表現では特に重要な考え方になります。

それらの力を身に付ける為にどのようなことを学びますか。

デザインワークを行う上で必要な立体造形の基本を習得してもらいます。具体的な材料や周囲の関係や条件と折り合いをつけ「成り立たせる」こと、その過程において実際に試作などの確認を経ながら作品をつくりあげていきます。

立体造形では様々な素材を扱うと聞いています。例えばどのような素材を用いて勉強しますか。

前期は「紙」という素材の扱いを通して「手」と「思考」を連動させながら作品制作を行います。後期は前期に引き続き紙と、それ以外の素材、スタイロフォーム、石粉粘土、スチレンボード、木材などを使用して制作していきます。

感性演習の授業を拝見した際に、指導に当たられるスタッフ数の多さに驚きました。

アトリエには担当教員に加えて、ティーチングアシスタント3名が常駐し指導に当たっています。実技経験が少ない学生もいますので、方法が分からないまま手が止まってしまうことがあります。そのような時は学生の状況を確認し、思考方法や技術を教え、演習が進まないということが無いようにしっかりとフォローしています。

デジタルは完成までのツールの一つ。あくまでも試行錯誤と手作業を大切にする
感性演習を教わる時に、どのようなことを大切にしてほしいですか?

私たちは学生たちの持つ感性を、最大限に引き伸ばす指導を心がけています。しかし学生たちの多くは、失敗を恐れるが故に急いで答えを求めようとする傾向があります。実は失敗はすごく大事な経験であり、失敗することで新たな気づきに出会うことができます。しかし「制作をやり切って失敗する」という段階までに至らず、不安な気持ちから作業が消極的になってしまうケースも多く見られます。まずは盛大に作りきることを心がけてほしいです。そして「自分で決める」ということも大切にしてほしいと、常々思いながら指導をしています。

感性演習「描く・伝える」課題例
感性を鍛えることは難しいことのように感じます。感性演習を教える難しさはありますか。

多くの学生たちはアイデアや論理的な判断力が大切であると理解していても、つい表面的な技術で人と比べてしまうことがあると思います。しかしそこは柔軟な判断力を身につけてもらえるように、指導しています。

感性演習「つくる・関係づける」課題例
感性演習履修後の学生さんの変化はいかがですか。

1年間の感性演習を通して、学生たちはできることがたくさん増えていきます。学生自身も授業を終えて1年経つと、自身の成長に対して達成感を感じていると思います。また、授業を通して自分の好みや価値観・人と違う感性・得意な作業などにも気づき、今後の進路や専門性を見つけるきっかけにもなって行くでしょう。

感性演習の授業を通して特に印象に残ったことはありますか。

学生たちが劇的に成長してゆく瞬間を見ることです。毎年感じている事ですが、いつも新鮮な感動を覚えます。

入学前のリメディアル教育課題と入学後の感性演習の取り組みなど、本格的なデザインの勉強を始めるに当たり、安心してスタートを切れる環境が用意されていると感じました。東京工科大学デザイン学部の充実した教育によって、素晴らしいデザイナー達が巣立っていく姿が想像できます。ありがとうございました。

※インタビュー、取材は2024年10月11日、東京工科大学・蒲田キャンパスにて。