「リメディアル教育」と
「感性演習」で
デザイン学修の扉を開く
東京工科大学
デザイン学部
准教授 深澤 健作 氏
講師 御幸 朋寿 氏
トーリン美術予備校
学長補佐 佐々木 庸浩
リメディアル
教育主任 藤本 成人
制作 稲葉 克彦
(INABA STUDIO)
東京工科大学デザイン学部は、初歩から個人の可能性を伸ばし、現代社会に必要なデザイン力で適応できる人材の育成をめざしています。その取り組みの一例として、総合型・学校推薦型選抜で早期に合格が決まった入学予定者に対して、「リメディアル教育」を実施してきました。また豊かな感性が、豊かな表現力につながるという考えに基づき、自ら感じ考える力を育み、手を動かしながら深く考察し、潜在する感性を引き出す「感性演習」というユニークな授業も行われています。
今回はそのような教育力に定評のある東京工科大学デザイン学部で、リメディアル教育と感性演習を担当されている、深澤健作准教授と御幸朋寿講師にお話を伺いました。
- これから東京工科大学デザイン学部を目指す受験生に向けて、貴学でどのようにデザインの勉強がスタートするのか教えていただけますか。
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深澤健作 准教授(以下、深澤):本学では、総合型選抜(全学部AO/学部特色)および学校推薦型選抜(指定校/公募制)で合格した入学予定者に対し、リメディアル教育課題を課しています。入学予定者は、添削指導を受けながら約3か月間にわたり課題に取り組みます。これらの課題は、単なる技術的スキルの向上だけを目的とするものではなく、学修へのモチベーションを維持・向上させることも狙いとしています。
- 入学前からデザインの勉強が始まるのですね。
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深澤:総合型選抜および学校推薦型選抜で早期に合格した入学予定者は、合格から入学までの期間が長く、空白期間が生じます。そこで、その期間を活用し、各家庭で取り組めるリメディアル教育課題に着手していただきます。これらの課題では、デザイン学部の学びに不可欠な「デザインのための思考プロセス」に触れるとともに、大学のカリキュラムに円滑に対応できる力を養うことを目的としています。
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デザイン学部
准教授 深澤健作氏
デザイン学部
講師 御幸朋寿氏 - リメディアル教育課題の中身はどのようなものですか。
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深澤:本学のリメディアル教育は、6種類の実技課題と4種類の英語課題で構成されています。実技課題では、複数の条件に基づいて作品を制作していただきます。入学後の授業に直結する実践的かつ幅広い内容を用意しています。
また、デザインの世界で国際的に活躍するためには、英語によるコミュニケーション能力が不可欠です。入学後にはネイティブスピーカーによる英会話など、実践的な授業が展開されますが、リメディアル教育では「単語力」「読解力」「作文力」といった基礎の再確認を重視しています。加えて、すべての実技課題文と解答用紙に英訳を付している点も特筆すべき特徴です。これは、実技と英語の基礎力を同時に養うことを目的としています。 - リメディアル教育は入学前に実施されるとの事ですが、高校生活との両立は可能ですか。
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深澤:入学前の3ヶ月間、高校生活に負担がかからない様に約3週間に2課題のペースで【実技課題、英語課題】が設定されており、各課題を1日1時間程度取り組めば期限内に完成できる分量となっています。実技課題は、経験のない入学予定者でも取り組める内容となっていますが、万一の場合には電話で直接質問できるなど、きめ細かなフォロー体制を整えています。

東京工科大学のリメディアル
教育課題過去出題例

東京工科大学のリメディアル教育はいわゆる入学前の基礎訓練では収まらず、大学での授業の理解度をより高めるための大切な体験となっている
- リメディアル教育についてはイメージが沸いてきました。実技経験が少ない入学予定者でも安心して入学前の準備ができますね。では次に、入学後に履修する感性演習について教えてください。
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深澤:感性演習では、デジタル技術が高度に発達した現代だからこそ、一人ひとりが持つ感性を活かした手作業による課題制作に重点を置いています。感性と技術力の融合は、豊かな表現を生み出します。
履修科目として「描く・伝える」「つくる・関係づける」を設け、さまざまな課題制作を通じて、自ら感じ、考え、手を動かしながら思考を深める演習を数多く体験します。これにより、潜在する感性を引き出し、想像力と造形的表現力を大きく育んでいきます。 - デジタル技術が発達している今だからこそ自らの力で感じ考え、手を動かしながら考察する機会を与えているということですね。
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深澤:手を動かしながら考えることは、デザインに限らず、あらゆる分野で欠かせない行為です。初期のアイデア段階からAIやデジタル技術に過度に依存すると、貴重な経験を失う恐れがあります。試行錯誤や失敗から得られる経験値は、極めて重要です。
AIやデジタル技術は、人間の経験や知識、さらには時間や手数の限界を超えた世界を提示してくれる、非常に優れた道具です。正しく活用すれば、より多くのことを実現できるだけでなく、イノベーションを生み出すことも可能になります。 -


デジタルは完成までのツールの一つ。あくまでも試行錯誤と手作業を大切にする - では感性演習の具体的な中身に触れていきたいと思います。感性演習「描く・伝える」の演習内容を教えてください。
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深澤:感性演習「描く・伝える」では、柔軟にアイデアのアウトプットを可能にするため、観察力と表現力を養い、さまざまな分野で活用できる平面表現力を身につけます。さらに、他者に効果的に情報を伝えるための幅広い視野を習得することが目的となっています。
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感性演習「描く・伝える」課題例
街を歩いてテクスチャを収集 -

感性演習「描く・伝える」課題例 - それらの力を身に付ける為にどのようなトレーニングをしますか。
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深澤:デッサン、スケッチ、着彩といった観察に基づく実技から始め、テクスチャー、色彩、形、構成などを活用したメッセージや感情の抽象的表現課題へと展開し、技術と感性を磨き上げていきます。
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ボールペンと透明水彩を
使用した素描課題
形態、質感の違いがあるモチーフをデッサン。
観察が重要 - 柔軟にアイデアをアウトプットするための秘訣は?
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深澤:恐れず、まずは考える前に手を動かしてみること。あるいは、徹底的に情報を収集し、客観性を保つこと。両方の要素が、自分のスタイルを築くことにつながると考えます。
- では次に感性演習「つくる・関係づける」についても教えてください。
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御幸朋寿 講師(以下、御幸):さまざまな素材による立体・空間表現の基礎について、手を動かしながら造形力と観察力を養い、ものと人との関係性を理解し、多角的な視野に基づく思考やかたちにするためのアプローチを学びます。
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感性演習「つくる・関係づける」課題例
- ものと人との関係性は大切にしたいポイントですね。
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御幸:ものづくりは人を中心に捉えて行うことがほとんどだと思います。作り手と見る側との関係や使う側との関係において、立体表現では特に重要な考え方になります。
- それらの力を身に付ける為にどのようなことを学びますか。
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御幸:デザインワークを行う上で必要な立体造形の基本を習得してもらいます。素材やモチーフの観察を元に具体的な材料や周囲の関係や条件と折り合いをつけ「成り立たせる」こと、その過程において実際に試作などの確認を経ながら作品をつくりあげていきます。
- 立体造形では様々な素材を扱うと聞いています。例えばどのような素材を用いて勉強しますか。
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御幸:前期は「紙」という素材の扱いを通して「手」と「思考」を連動させながら作品制作を行います。後期は前期に引き続き紙と、それ以外の素材、スタイロフォーム、石粉粘土、スチレンボード、木材などを使用するとともに造形のイメージテーマやモチーフを踏まえて制作していきます。
- 感性演習の授業を拝見した際に、指導体制の丁寧さに驚きました。
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深澤:実技経験の少ない学生が多いため、制作の過程で手が止まってしまうこともあります。そのため、学生の状況を常に把握し、思考方法や技術面をサポートしながら、演習に楽しく取り組める授業体制を整えています。
- 感性演習を教わる時に、どのようなことを大切にしてほしいですか?
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深澤:私たちは、学生が持つ感性を最大限に引き出す指導を心がけています。しかし、多くの学生は失敗を恐れるあまり、答えを急いで求める傾向があります。前述のとおり、失敗は非常に重要な経験であり、新たな気づきに出会うきっかけとなります。ところが、「制作をやり切って失敗する」という段階に至らず、不安から作業が消極的になるケースも少なくありません。まずは思い切って制作をやり切ることを心がけてほしいと考えています。さらに、「自分で決める力」も大切にしてほしいと伝えながら指導を行っています。
- 感性を鍛えることは難しいことのように感じます。感性演習を教える難しさはありますか。
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深澤:多くの学生は、アイデアや論理的な判断力の重要性を理解していても、表面的な技術で他者と比較し意識しすぎてしまうあまり、考えを萎縮させてしまうことがあります。自身の感性に素直に応えられるよう導きつつ、客観性を保たせることは非常に難しい課題ですが、学生と積極的にコミュニケーションを取りながら授業を進めています。
- 感性演習履修後の学生さんの変化はいかがですか。
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深澤:1年間の感性演習を通じて、学生はできることを大きく増やしていきます。さらに、授業を通して自分の好みや価値観、他者と異なる感性、得意な作業などに気づき、今後の進路や専門分野を見つけるきっかけとなるでしょう。
- 感性演習の授業を通して特に印象に残ったことはありますか。
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深澤:学生が劇的に成長する瞬間を目にすることです。毎年のことながら、いつも新鮮な感動があります。
- 【記事まとめ(トーリン美術教育研究会より)】
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入学前のリメディアル教育課題と入学後の感性演習の取り組みなど、本格的なデザインの勉強を始めるに当たり、安心してスタートを切れる環境が用意されていると感じました。東京工科大学デザイン学部の充実した教育によって、素晴らしいデザイナー達が巣立っていく姿が想像できます。ありがとうございました。

※インタビュー、取材は2025年11月21日、東京工科大学・蒲田キャンパスにて。













