立命館大学が
デザイン・アート学部を
新設
立命館大学
准教授 中山 郁英 氏
トーリン美術予備校
学長 瀬尾 治
学長補佐 佐々木 庸浩
制作 稲葉 克彦
(INABA STUDIO)
180名の大規模定員が生み出す、多様性と創造性の共鳴。
2026 年春、京都にある立命館大学に新たに「デザイン・アート学部」が誕生します。多様な人材を選抜できる柔軟な入試方式が採用されており、特に総合型選抜では、これまでにデッサンや作品ファイルなどで培った美術の表現力や構成力を活かす道と、必ずしも実技に縛られずに挑戦する道、その両方が開かれています。
そして何より注目すべきは、関関同立の一角として全国的に知られる立命館大学が、総合大学ならではの規模でこの新設学部に180 名という大人数の定員を設けたことです。美術系のひとつの学部としては珍しいこの規模感は、 多様な学生が集い、互いに刺激し合える学びの場となるはずです。
- 最近、美術大学の中でも武蔵野美術大学のクリエイティブイノベーション学科や女子美術大学の共創デザイン学科のように、実技経験がなくても入試を受けられる学科が増えています。私たちの世代にとっては、美大といえば東京藝大や多摩美大、武蔵野美大など、必ず実技が必要でした。でも今は〝デザイン思考〟といった言葉の広まりなどもあり、実技以外の力が求められる時代になってきたと感じます。
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中山郁英 准教授(以下、中山):もちろん絵を描く力や造形の力は重要です。しかしそれだけでなく、〝あるべき社会の形を考える力〟そして〝社会の課題をどう解決するかを考え、形にしていく力〟が求められています。私たちの学部では、そうした力を伸ばす教育を中心に据えています。
ここでいう「デザイン」とは、単にモノを美しく作る技術のことではありません。課題を発見し、関係する人々の声を聞き、アイデアを出し、試しながら改善していく一連のプロセスや考え方を指します。高校生の皆さんも文化祭や部活動で「どうすればより良いものができるか」を考える経験をしたことがあると思います。そういった考え方や方法をより体系的に学び、社会で実践していくのが「デザイン・アート学部」の狙いです。
中山郁英准教授 - 入学前からデザインの勉強が始まるのですね。保護者の方が一番心配するのは、〝美術系に進学して就職できるのか〟という点です。以前に比べれば理解も広がってきましたが、まだまだ不安を口にされる方も多い。デザインやアートの分野も魅力のある就職先があり、〝産官学連携〟をはじめとした〝在学中から社会とつながれる授業〟があることを伝えたいと思います。
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中山:その点は非常に大切ですね。トーリンさんの冊子をめくると、1枚目には経済産業省の〝デザイン経営宣言〟が紹介されていますが、実際、企業だけでなく行政でも〝デザイン思考〟を活用しようとする動きが増えています。例えば、経産省や自治体でも〝デザイン経営〟という考え方を導入し、行政職員の採用枠として〝デザイン・クリエイティブ枠〟が設けられるような自治体もあります。つまり、デザインやアートを学んだ学生が行政や企業の現場で力を発揮できる場面が確実に広がっているのです。
就職先の例としては、デザイン事務所や広告代理店だけでなく、メーカーの商品企画、IT企業のユーザー体験設計、自治体のまちづくり、NPOの広報など多岐にわたるものが想定されます。保護者の方が思い浮かべる「絵を描くだけの仕事」ではなく、「社会の中でデザインやアートの力を活かす幅広い仕事」があることを知っていただきたいです。

- 行政の分野でもデザイン的な考え方が活用されているとのことですが、実際にはどのように取り入れられているのでしょうか。
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中山:経産省など中央省庁だけでなく、市役所のような基礎自治体でも、この5~6年で広がってきています。たとえば先ほどお伝えしたような〝デザイン・クリエイティブ枠〟の例では、法律等の試験を通った一般行政職と同じ扱いで、さまざまな部署をローテーションしながら行政の仕事に携わることができます。こうした動きからも、デザインやアートの力が社会で求められていることが分かります。
就職やキャリアの選択肢も広がり、これまで以上に幅広い可能性が生まれています。だからこそ、デザイン・アート学部でも「社会とのつながり」を重視しています。在学中から学生がさまざまなプロジェクトに参加できるように準備を進めています。教員も新しいプロジェクトを立ち上げ、産官学で連携していきます。そうすることで、学生は「自分のデザインやアートの力が社会でどう活かせるのか」「社会とはどういうものか」を体験的に学べます。 - 新しくできる学部ということで、行政や地域から相談を受けるなど、課題解決の依頼に取り組むこともあるのでしょうか?
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中山:身近なところでは、京都府や京都市の施設などから『コラボレーションできないか』というお話をいただいています。また、教員一人ひとりが幅広いネットワークを持っているので、そこから声をかけていただくこともあります。例えば私の場合、研究分野が行政や公共に関するデザインなので、京都市の方から『サーキュラーエコノミー(循環型経済)』に関するプロジェクトで一緒に取り組めないかという話をいただきました。もちろん、行政機関だけでなく企業からもプロジェクトの打診があります。これをどのように形にしていくか、現在、教員や学部全体で検討しています。

オープンスタジオ(現段階で建設・整備が計画されている建物・施設のイメージ図) - パンフレットに〝京都のまち全体がラーニングプレイスになる〟と書かれていましたが、これはどういう意味なのでしょうか。
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中山:私たちは学びをキャンパスの中に閉じません。学生が企業や自治体と一緒にプロジェクトを行い、まちの人々と協力しながら学ぶ。京都というまち全体を舞台にした学びを構想しています。たとえば2年生から4年生が履修する《Design in Society(DiS)》という科目では、学生が自分の興味に基づいてプロジェクトに参加します。観光地の案内方法を考えるチームもあれば、伝統産業と協力して商品を開発するチーム、展示会の企画をするチームなどもあるでしょう。こうして実際の社会課題に関わりながら学びます。そして、その経験を《Design Studies(DS)》という科目で振り返り、自分が学んだことを整理していきます。実践と振り返りを繰り返すことで、自分なりの〝ものの見方〟を育てます。
また、《Design Language(DL)》という科目では、デザイン・アートに関わるさまざまな「知識」や「技能」を修得しながら、構想を形にしたり、物事をデザインやアートの視点から捉える力を育みます。3つの学びを並行して進めることで、4 年間で「自分なりのデザインやアートの視点」をしっかり育てることを重視しています。
京都には伝統文化と最先端技術の両方が存在します。祇園祭のような歴史ある祭礼から、AIやデジタルアーカイブを活用した文化資源の保存まで、幅広い題材が学びに活かされます。 - パンフレットには『美的感性に裏打ちされた5つの能力』という表現がありますが、今ご説明いただいた能力を育むには美的感性を磨いてほしいということですね。
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中山:私たちは美的感性を非常に大切にしています。説明会で『美的感性って何ですか?』と聞かれることがありますが、私は『自分なりの考え方や哲学、自分のものの見方』だと答えています。「美的感性」を土台として、「問題解決力」「問い直し力」「共創力」「問題発見力」「創造的思考力」の5つの能力を総合的に身につけられます。そして、それらの能力を使ってプロジェクトに取り組み、そのプロセスを振り返る経験を重ねることで、多くの視点を養います。その積み重ねが、自分自身の物差しや判断軸を育むと考えています。
- 新しい学部には、絵や勉強だけでなく、スポーツ能力を活かした入学選抜で入学する学生もいるそうですね。
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中山:はい。絵や造形が得意な方もいれば、スポーツに打ち込んできた方、数学や情報分野が得意な方も入学してきます。定員はなんと一学科で180名。この規模感は、この分野の新設学部としても大きな特徴です。一般選抜の方式では60名を募集しており、内訳は文系型が35名、理系型が15名、共通テスト(3教科型)が5名、さらに後期分割方式で5名を予定しています。
一方で、創造的な取り組みを評価できると期待しているのが(総合型選抜)AO選抜入学試験です。こちらは募集人数が65名で、視覚表現型とポートフォリオ型を募集します。そのうち、「総合評価方式(視覚表現型)」でⅠ期とⅡ期をあわせて30名を設定しています。構想力を重視しており、本学の設定するテーマに対して表現をしてもらいます。イラストだけでなく、写真・図・表などもOKです。創造的な思考や発想に加えて、論理性や説明力を問うものになっています。 - イラスト以外の表現も認められるのは面白いですね。トーリンの授業でもプレゼンボードを作る課題が増えているので、イメージが湧きました。
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中山:さらにポートフォリオ型の試験では探究学習の成果、部活動、自主的な課外活動など、高校生活で培った多様な成果を見せてもらいます。制作活動などを積み重ねてきた学生はもちろん、予備校に通っている学生や芸術系高校に在籍している学生にとっても、その強みを発揮できる場になるでしょう。
プロジェクト型授業では、多様な背景を持つ学生たちがチームで取り組みます。絵を描くのが得意な学生、論理的に考えるのが得意な学生、パフォーマンスで場を盛り上げるのが得意な学生。それぞれの学生の強みが合わさることで、ひとりでは生み出せない成果につながります。
高校生のみなさんには「絵が苦手だから」と諦めてほしくありません。デザイン・アートには多様な入り口があり、この学部はその可能性を広げる場なのです。 - 立命館大学には複数のキャンパスや学部がありますが、学部を超えた連携は考えられていますか?
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中山:もちろんあります。これは総合大学ならではの強みです。全学的に開講されている授業や起業家育成プログラムなど、学生が手を伸ばせば他学部の仲間と関わる機会はいくらでもあります。
- 確かに、多様な学部が集まる大学自体が『ひとつの社会』と言えるかもしれませんね。
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中山:その通りです。大学の外に出て社会とつながることも大切ですが、大学の中にも小さな社会があります。異なる学部の学生と一緒にプロジェクトを進める中で、『どうすれば協働できるか』『自分はどんな役割を果たすべきか』を体験的に学べます。多様な視点を内包しながら物事を前に進める経験を通じて、学生は『自分のポジショニング』を確立していけます。それが総合大学の大きな魅力です。
- 先生がおっしゃった『美的感性』ですが、18歳までに育まれた多様な視点や価値観を持つ学生が集まりますね。その多様性を大切にされている印象を受けました。
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中山:多様なバックグラウンドを持つ学生たちが集まることを期待していますし、教員側も幅広い専門性を持っています。学生同士のコラボレーションだけでなく、学生と教員の協働からも多角的なプロジェクトが生まれるでしょう。年間180人という規模の卒業生たちが社会に出れば、企業や行政の現場でも『多様な視点を持つ人材』が当たり前の存在になります。その結果、新しい制度やビジネス、今までにない方法が生まれる可能性があります。
- つまり、社会を新しく動かす原動力になるということですね。
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中山:そうです。私たちが育てたいのは、まさにそうした『CX 人材』です。従来の枠にとらわれず、新しい価値を創造できる人材を世に送り出したいと考えています。
私たちが育てたい『CX人材』とは、DX(デジタルトランスフォーメーション)がデジタルの力で社会を変えることを意味するように、CX(クリエイティブ・トランスフォーメーション)は創造性の力で社会を変える人材のことです。デザインやアートを学んだ学生が社会のさまざまな場所で活躍すれば、『そういう人材が珍しくない』という社会になります。それはとても大きなインパクトです。『CX人材』とは、単にデザイナーやアーティストという枠を超え、社会を動かす創造的な人材のこと。これからの時代に必要とされる存在です。 - AIの発展も起因するのかもしれませんが、パンフレットに記載されている『デジタルとフィジカルの融合』という言葉が印象的でした。一方で考古学などの手法も授業に取り入れていくと伺いました。こうした分野は立命館大学が新しい時代をリードしていく可能性を感じます。
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中山:フィジカルとデジタルの融合、フィジカルには、絵筆を使う作画・描写や人間生身の心なども広く含まれます。デジタルというのは、近年進んでいるAIやアプリ等を用いて作画・描写するようなものや、仕組みとしてのオートメーションなども含まれます。ロボットなどの研究はそれらの融合に近い概念だと思います。ただ、まだまだ別々のものとして学んだり語られることがありますが、これからの未来には、学問分野を特定せずそれらを融合させて価値創造することが求められます。本学部では、デザイン・アートのなかでの融合を実現していきます。
そういった意味では、歴史や考古学の視点は、フィジカルの領域になりますが、未来を考えるときにも重要な役割を担います。例えば『歴史のフレームワークを未来に応用する』といった発想です。
また、フィジカルとデジタルとの融合の例として、AIを活用した漫画の研究も進んでいます。漫画家の作風を画像認識で学習させ、AIに再現させる試みなどです。生成AIなど新しい技術を『どう創造的に使うか』が大事で、単に拒絶するのではなく、活かす視点を持つことがポイントです。こうした授業は男女問わず幅広い学生が関心を持っています。教員もデザインや情報分野など多彩な専門性を持つため、学部が本格的に動き出せばさらに多様な学生に魅力を感じてもらえるでしょう。 - 美術系の高校や予備校では実技的な指導が多いと思いますが、生徒たちは観察力や表現力、自分なりの物差しを育てています。そうした力を持つ学生にもぜひ入学してほしいとお考えですか?
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中山:観察力や鋭い視点を持った学生の入学を心から期待しています。実際にそうした経験を積んだ人は、プロジェクトでも独自の強みを発揮できるはずです。私自身、美大出身ではありませんが、社会人になってから美術系の夏期講習でデッサンを学び、自分が『いかに物を正しく見られていないか』を痛感しました。観察してアウトプットする経験を繰り返すことで初めて見えるものがあります。ですから、入試でも積極的にアピールしてほしいですね。
- 京都は外国人観光客も多く、文化資源も豊富です。そうした地域性は、どのような学びにつながるのでしょうか。
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中山:京都は祇園祭をはじめ、歴史や文化が色濃く残る街です。本学には「アート・リサーチセンター」という拠点があり、美術作品や芸能などを長年デジタルアーカイブしてきました。学生はそのような研究に関わることで、「文化を残すとはどういうことか」を考えたり、「伝統と最新技術をどう組み合わせるか」といった新しい挑戦にも取り組むことができます。
また、伝統工芸をデジタル技術で発信するプロジェクトや、外国人観光客向けの多言語対応アプリの開発なども地域における学びの一例です。まさに、京都というフィールドがあるからこそ、多彩な学びが可能になるのです。
立命館大学アート・リサーチセンター - 確かに、地元の人よりも外から来た人の方が京都の魅力を理解している場合もありますよね。デザイン・アート学部の新設をきっかけに、「ここで暮らしてみたい」「地域課題の解決に取り組みたい」と考える学生も増えるのではないでしょうか。
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中山:おっしゃる通りです。関西圏だけでなく全国から学生が集まりますので、多様な視点で京都と関わることができます。その中で京都の魅力を再発見するだけでなく、自分の生まれ育った地域や価値観を相対化して見つめ直す経験にもつながります。
- なるほど。そうした相対化の学びにおいて、アート・リサーチセンターも授業の中で活用されるのかなと想像していました。実際にはどうなのでしょうか。
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中山:はい、もちろん活用されます。アート・リサーチセンターは、長年にわたりアートや文化のデジタルアーカイブに取り組んできました。そして現在、学部長に就任予定の赤間教授は、その分野の第一人者であり、センターを率いてきた人物です。
これまで蓄積してきたアーカイブを教育に活かすだけでなく、新しいアーカイブのあり方を考えていくことも大切です。学生は、実際に「どうやってアーカイブをつくるのか」という技術的な側面を学びながら、「何かを残すとはどういうことなのか」という根本的な問いにも向き合うことができます。そうした点で、アート・リサーチセンターとのコラボレーションも大いに期待していただける領域だと思います。
デジタルアーカイブ作業 - それでは最後に入試を控える高校生へのメッセージをお願いします。
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中山:デザインやアートを学んできた生徒に伝えたいのは、『なぜその表現をしたのか』を言葉にできるようになってほしいということです。作品そのもの、だけでなく、その背景にある考えや思い、その表現に至ったプロセスを説明できることが大切です。 世の中には『普通』や『当たり前』という言葉がありますが、実際にはそんなものは存在しません。だからこそ、自分の考えや視点を大切にし、それを表現できる人になってほしいと思います。トーリンさんのホームページにも『大学を選ぶときには自分の視点を大事にしてほしい』とメッセージがありますよね。すごくいい言葉だと思いました。自分の視点を持たないと、大学を選ぶ基準も曖昧になりますし、入学後の学び方にも迷いが出ます。だからこそ、自分の視点を持ち、それを大切にしてほしいと思います。

インタビューは2025 年9 月16 日、立命館大学 平井嘉一郎記念図書館にて。
右から中山准教授、トーリン美術予備校・瀬尾、佐々木










